45 初心者も知っておきたい金型の知識 3

樹脂成型品は試作(トライ)で量産時のトラブル解決

イグレン 加藤 文男

 金型の製作が完成すると検収し、仕入れ処理することになります。検収に当たって重要な確認工程は、その金型を使用しての試作です。(この工程をトライと言う企業もあります)
トライは、量産時のトラブルをなくするためにこのような条件を詳細に検討する工程なのです。トライで問題なく成型できることを確認して検収します。

1 トライで必ず品質確認
最近、金型の構造、樹脂の種類や成型条件の研究が進み、事前にコンピュータにて条件を設定してシミュレーションでトラブルの発生を予測し、解決できるようになってきました。しかし、メーカーも型式も同じ成型機で製品(この場合は部品)を成型しても、成型機、成型温度、型の余熱時間、適正樹脂充填量、金型の保持圧力、保持圧力時間、射出ストロークなどの保圧条件、冷却時間、成型後の適切な処理などにより、バリ、ウエルドライン、変形やひずみ、ひけ、しわ、破壊、寸法変化などの品質問題完成品に問題が発生することがあります。製作した金型を貸与した後、継続して問題ない品質を確保できることを必ずトライを行い確認します。

2 トライは三社の立会いで行なう
トライには、製品の設計者、金型構造設計者、金型製作者、成型業者が立会いの上、行なうことが理想的です。品質、納期、コストなどの成型品発注者の優先順位を理解して製品設計者、金型設計者、成型業者に対して合理的な判断と適切なアドバイスを行い、立場の異なる三者の調整することも必要です。成型素材の性質、金型の知識、成型技術に関して熟知した経験が生きてくるのです。
また、その部品の使用場所により、発注者から品質管理担当者、検査担当者もトライに同席させ、限度見本の作成することも必要です。

3 成型条件を詳細に把握し記録する
設計どおりに金型を製作しても、特に樹脂成型品では、成型条件の違いで変形やひずみ、更に予定通りの寸法が確保できないなどの問題が発生することがあります。完成時の品質に関して安易に妥協してしまうとその後の納期に問題を生ずることが多いのです。トライの段階で成型条件について十分検討することで後日の納期管理が楽になります。
満足する出来栄えの成型品ができた際には、このときのあらゆる条件をできるだけ詳細に取得し、記録します。後日、トラブルが発生した際にその解決も容易になります。記録すべき項目や各種条件は、成型業者が熟知しています。

4 トライのときの注意事項
(1)成型して完成した時の出来栄えについて、正しい判定基準を定めておくことです。
判定の基準は、その部品が使用されるところにより変わります。製品の使用者から見えない製品の内部に取り付けられる部品は、強度に影響がない限りあまり出来栄えについて考えなくて良いでしょう。使用者の目に付きやすい部分に取りつけられる部品は、基準が厳しくなります。社内に凡その基準があると思いますが品質管理担当者や検査担当者と事前に十分打ち合せておきます。その場になって判定の基準がぶれないことが大切です。
(2)試作に納得するまで充分時間をかける
試作は、発注者、金型製造者、成型業者の立会いで行ないますがお互いに納得するまで何度も条件を変えて繰り返すことです。金型製造者、成型業者は、出来栄えについて経験者多く出来栄えについて予測しています。しかし、発注者側の設計者が経験不足の場合や資材購買担当者が初心者の場合つい安易に妥協しがちになります。安易に妥協すると本生産のときに出来栄えで改善が難しくなり、後悔することになります。
(3)進行は成型業者に任せましょう
金型の大きさなどにより、トライ前の成型機の余熱時間など成型業者はその条件を熟知しています。トライの進行は、成型業者に任せたほうが良いでしょう。
しかし、予定通りに成型条件がうまく行かず、結果が出るのが深夜になることもあります。発注者側の担当者は、全員徹夜を覚悟で参加し、個人的な事情で終了時間を早めることはなくしたいものです。結果を急ぎすぎると返って時間がかかります。
真夏や真冬など厳しい環境においてトライするときは、早く結果を得たいあまり判断が緩くなります。厳寒に暖房設備が不十分な中でトライを行い、結果を急いで失敗した経験があります。

5 完成品の限度見本サンプルを作成
成型条件を検討し、完成品ができあがります。このときの成型条件でできあがった試作品は金型製作者、成型業者、発注者用に同じサンプル3組準備をし、それぞれ所有し、相互の判断基準のズレを防止します。後日トラブルが発生した時の重要なサンプルになります。
試作品の出来栄えにバラツキが発見された場合には、了解できる品質の標準、悪いほうの限度見本を作成しそれぞれ所有します。出来栄えの限度見本は、一種類とは限りません。トラブルの症状により、後日のトラブルを避けるために必要なだけ作成します。
限度見本には、三社の責任者がサインをしてでき上がりです。この限度見本が完成すれば、トライの終了です。限度見本は、トライの当日に作成しましょう。

掲載日:2016/01/30