44 初心者も知っておきたい金型の知識 2

資材購買は初期段階から金型製作に関与

イグレン 加藤 文男

 金型は、資材購買担当者が扱う原材料としては特殊で価格が大きく、会社の重要な資産です。その原価の構成は、概ね材料費20%、加工費70%そして管理費10%といわれています。また、使用する製品の開発設計の工程から見ると企画段階、構想設計段階、製品設計段階と進むに従って金型に使用する材質が決まり、構造が決まり、詳細仕様が決定し、そのコストダウンの可能性は小さくなります。
金型の仕様を決定し、製造依頼先が決定すると資材購買担当が介在することが困難になってきます。従って、資材購買担当者は、新製品開発のできるだけ初期の段階から金型製作に関与することが大切です。

それぞれの段階における注意するポイントは次のものがあります。
1 金型の必要性の追及
製造に当たって製造数量が多くなると安易に金型に頼る傾向が強くなります。特に設計担当者は、特徴を出すことを主張し、不要なところまで金型を使用して部品を作ることをしたがります。資材購買担当者は、日常から製品開発の初期の段階から情報を集めて金型に関するコスト削減する方法を検討します。
(1)市販品で対応できないか
新しく金型を製造するのではなく市販されている部品で対応することを検討します。設計者が検討する部品について、市販されているもので使用できるものを検討したいものです。
(2)古い金型の検討
歴史のある企業では中小企業でも過去に相当数の部品を使用しています。同じような機能を有する部品を使用した経験があるものです。一度使用し、廃棄処理をせずに眠っている金型も相当あると思われます。特に若い設計技術者は、過去の実績を検討せずに新しい金型で解決しようとします。新しい金型を製作するのではなく、過去の金型の検討を考えます。
(3)標準化はできないか
他の製品の金型を流用することを検討します。設計者が異なると先輩の設計者が使用した部品の情報を持たずに新しい部品の図面を作成しがちです。特に板金部品の場合は、構造や板の厚さなどは少し設計者の工夫で使用できる部品があるものです。過去の図面を整理し、標準化の情報を設計者に伝える工夫をしたいものです。
この種の標準化は、設計部門が実施しますが資材購買担当者も積極的に関与したいものです。

2 製作コストの検討
金型を製作するコストに関する分析はたいへん重要です。製作コストの検討は、広い範囲の情報を活用したいものです。
(1)金型材質
製作する数量が多くない場合には金型寿命も長くする必要がないのは当然です。高価すぎる材質を要求していないか、安い材質で対応できないかどうかの検討も重要です。
(2)金型構造
① 簡易金型にできないか
製造する数量によりますが高価な金型でなく、簡単な金型で対応することを検討します。最近、金型の技術も進歩しています。資材購買担当者は、製作費用のかかる金型に関する情報には注意をしておきたいものです。
最近は、3Dプリンターが相当な範囲で活用できるようになりました。資材購買担当者も情報収集に努力しましょう。
② 加工しやすい形状か
設計技術者は、デザインにこだわり、複雑な構造を要求する傾向にあります。本当に重要な形状かを正しく評価することを検討します。加工しやすい構造になるように知恵を絞ることも大切です。
部品品質の安定は重要な要素ですが金型製作の容易化と使用時のメンテナンスの容易化は重要です。樹脂成型品の場合、原料の溶解性と湯流れなどコンピュータによる解析が進み、最適な構造が事前に検討できるようになりました。樹脂成型品で簡単な構造の部品の場合でも、材質と強度、成型時の変形など金型構造に関する技術を十分活かした金型構造と適正な原材料の選択をします。
これらの情報は、経験によって得るところが多いので、資材購買担当者の経験を活かし、若い設計技術者が無駄な失敗がないように十分伝えたいものです。
③ 加工法は適切か
金型を製作する際の加工方法の検討です。金型材質と関係が深いですが、金型を製作する加工方法と時間について慎重な判断が必要です。
④ 生産性の追及
金型使用時の生産性は、金型取り付け時の段取り時間の短縮や挿入取り出し時間の短縮化などに影響されます。型固定方法の標準化や挿入取り出しの容易化など資材購買担当者の経験を活かす機会が多いものです。設計技術者と情報交換を密にし、適切な金型構造ができるようにしたいものです。
また、製品の組立て製造工数の短縮も重要な要素です。金型の検討にのみ捉われて、金型を使用してできた製品の組立て時に余分な時間を要しては意味がなくなります。多数個取り、複合取りなど金型構造により解決する方法もあるものです。資材購買担当者ができるだけ設計の初期段階から金型製作に係わることにより、部品の製造からその部品を使用した組立てまで最適な設計に結びつきます。
資材購買担当者は、経験を十分活かせるように適切な助言ができる能力も養いたいものです。
(3)使用機械の種類と能力
製造機械設備も次々と新しい技術を採用した新製品が開発されています。製造効率が低く、製造設備の能力が経営効率にも大きく影響する場合もあります。特に樹脂成型機械の場合には、金型の取り付け構造など設備する機械により異なります。金型製作を依頼する際に成型機械のメーカに合わせた構造にする必要があります。勿論、成型用の金型製造業者は、確認して作業が開始されますが成型業者を変更する計画がある場合には、他の機械との共用化も考慮しておきます。同時に従来使用してきた連結される自動機械との整合性にも配慮しなければなりません。
(4)コスト分析
コスト低減のところにも記しましたが適正な工数やレートであるかどうかの検討を怠らないことです。常に工数・レート分析資料を入手し、現在の取引先が最適な金型製造者かどうかの検討をします。

 3 金型見積比較と決定
当然のことですが、複数の金型製造業者から見積書を入手し、比較検討します。従来と同じ材質の部品では、従来の取引関係で安易に同じ取引先に見積もり依頼をしてすませることが多くなります。確かに、製作する納期や金型を使用しての試作(トライ)など気心が知れて安心できるメリットがあります。しかし、一度製作する相手先を決定すると変更は難しくなります。安易な取引の継続も、お互いに競争力を向上することに努力をしなくなります。新しい金型の製作のたびに適切な相手先かどうか、もっと技術レベルの高い相手先はないかなど、経済的に製作できる相手先を検討することです。

掲載日:2016/01/29