14 もしあなたが契約担当に配属されたら その1

発注価格の決定

イグレン 加藤 文男

 資材購買部門・契約担当への配属

 資材購買には、契約機能、調達機能、材料管理機能、開発購買機能があります。ここであなたがこれらの担当部門に配属された場合を考えます。会社の内容や製品についてよく知らない新入社員が最初から契約担当に配属されることは少ないと思います。しかし、小規模の会社のことも想定し、契約担当の仕事から検討します。

 どの会社でも最初は、誰か先輩や上司からの指示を受けて仕事をすることになります。会社でも業務マニュアルが準備されているのでそのマニュアルに従って仕事をするように指示されることもあります。しかし、どの会社でも同僚や先輩たちは忙しく、説明を受けることなしに仕事をしなければならない場合もあるかもしれません。そのときのために契約を担当する購入価格の検討から決定までの基本的な考え方とルールを見てみましょう。

Ⅰ 発注価格の決定
 まず、発注価格の決定です。注文書を作成するには、発注価格が必要です。取引が既に行なわれている場合には価格が決まっています。ここでは新しく価格を決めることから考えます。

 新しく契約を必要とする原材料が少ない場合には、価格の検討はその都度1件ずつ処理します。新製品の開発で新しく発注する品目が多くなると相当計画的に進めないと製造に間に合わなくなります。種類が多くなると生産日程を勘案しながら見積書の入手を計画的に行なわなければ間に合いません。見積書の取得から取引先の決定の日程計画を作成し、計画的に行ないます。

(1)見積書の取得
 新しく契約する原材料のこれ位の価格で購入しようとする目標価格が必要です。もし、未確定であれば、原材料の購入目標価格を準備しなければなりません。契約担当者は、見積書を取得することから始めます。見積もり依頼は、原則として2社以上に行ないます。
 見積書の依頼手順は、次のようになります。
① 取引先から見積書を取得するために当方から必要条件を提示
  調達しようとする原材料に関する情報を提供します。どのような原材料を必要とするかの提示
  です。仕様書、図面などを準備します。サンプルがあればこれも提示します。
② 調達購入するときの条件の提示
  購入する数量がわずか1個や2個など少ない場合とたくさん購入する場合で見積価格が違うのは
  当然です。たくさん購入する場合には、取引先も価格を合理的に決めようと努力します。少な
  い数の購入は、魅力のある取引ではないので特に安く提供しようとは考えないでしょう。
   まず、総使用計画数(企画数)が必要です。製品を生産する期間に使用する総合計数です。
  3年から5年の間製品を販売すれば原材料の使用数量も相当大きなものが期待できます。相手
  先も相当安い価格を提示しようという気になります。また、一度に購入する数量の提示も必要
  です。これを発注するロットの大きさといい、一般的に1ヶ月間で製造に使用する数量です。
③ その他
  納入場所、検査方法、支払い条件などもありますがこれらは取引基本契約書で共通的な条件と
  して決めておくのが普通です。

見積書取得に関して次のことに注意する必要があります。
① 新製品に関する機密保持
  見積に関する製品情報が同業他社に漏れては困ります。同業他社は、自社以外でどのような新
  製品を発表するかを密かに調べているものです。新しい技術や工法を使用した部品の情報の秘
  密保持に気をつけましょう。取引基本契約書には機密保持項目がありますが、この契約がない
  場合には特に配慮が必要です。
② 見積依頼に使用した情報、資料の回収
  依頼時に使用した仕様書、図面から情報は漏れるものです。最近書類は簡単にコピーが作成で
  きますので管理が難しいのですが提示した各種資料は打ち合わせ終了後には、必ず回収しま
  す。2社以上から見積書を入手するので発注から外れる取引先がありますので特に注意します。

 (2)価格の検討
 見積書がそろった段階で価格の比較検討に入ります。見積比較表を作成します。価格の検討には、明細票を入手します。見積条件が提示された場合には、比較表に記載し、詳細に検討します。
比較表に基づき、調達すべき取引先案を決定します。決定に際して、推薦理由を明確にし、記載し、指示された上司に報告します。

(3)価格の折衝
 入手した見積価格と当方の購入目標価格に価格差がある場合、取引先と価格折衝を行ないます。価格交渉に際して取引条件も勘案し、価格引下げの可能性が主となります。        
価格の折衝は、次の点を検討することになります。
① 当方の条件の変更の可能性
② 原材料の品質・構造など当方の設計改善の可能性
③ 取引先の工程改善の可能性

 価格折衝においては次の点に注意します。
① 価格折衝の経過は記録し、逐次上司に報告する (調達履歴として記録を残す)
② 不採用取引先には不採用の理由をきっちり説明し、了解を取ります。(これを怠ると次に
   見積依頼をしても協力を得られなくなります)

 * 価格折衝は、新規取引のときだけでなく、定期的に目標価格を検討し、コストダウンの折衝は
  行なうことがあります。同じ手順で行ないます。

(4)価格の決定と相手先への連絡
 社内の価格の決定は、関係部門の了解を原則とし、社内のルールに準じます。いくつかの新しい原材料の見積価格がそろった段階で社内会議を開いてまとめて検討します。
① 推薦する取引先と価格の提示
② 社内会議などでの決済
  設定した目標価格に到達しなかった場合は、関係部門の了解が必要です。
③ 調達リストへの登録
④ 取引先への連絡

 取引先への価格決定の通知は、見積協力への御礼の言葉と共に速やかに行ないます。
契約の対象から漏れた取引先については、丁寧な説明が必要です。

 (5)価格の変更
 取引先や自社の理由で調達する価格の変更がよく発生します。価格の変更は、新しい価格の決定と同じです。価格の変更が安易に行なわれないように社内の変更手続きを決めておきます。
 一般的に価格の変更は次の手順で行ないます。
① 目標価格の確認
② 見積書の入手
③ 社内の決済
④ 調達リストへの登録

 価格の変更に関して次のことに注意します。
① 価格の変更は過去の価格の決定経過(取引履歴)を参考にします。
② 変更価格を適用する日程を明確にします。
③ 変更の実施の確認をします

 原材料の調達価格を交渉して、決定するという業務は、どの会社にとっても契約担当の重要な役割です。製品を構成するすべての原材料、部品の総価格は、製品の利益を決定するからです。

 会社にこの種の業務マニュアルがなければ、上記の内容を参考に作成を検討するとよいでしょう。

掲載日:2015/06/24