33 危機(リスク)への対応 4

4 事業経営上予測すべき危機

イグレン 加藤 文男

 海外調達、海外生産など海外での事業活動にはリスクが伴う。リスクを過剰に恐れては、海外調達や海外生産のメリットを享受できない。会社内のチェック機能を拡大し、リスクが問題として顕在化する前に経営者が回避する先手を打つと共に被害をできるだけ少なくしたい。
 
今回取り上げる危機は、前回まで取り上げた自然災害、突発的な事故、政治・経済・社会的と少し次元の異なるものである。経営者の考え方や方針が中間層から末端の部下まで行き届き、管理を徹底することで防止できるものである。談合による独占禁止法違反など企業の不祥事は、経営者の問題として捉える必要がある。
 
大企業の場合、発生した危機はマスコミで取り上げて表に出る。しかし、中小零細企業の場合は取り上げられることもなく終わっている。失敗した企業の経営者も被害を受けたことを恥ずかしいと思って言いたがらないので表に出にくい。中国などで被害にあってもどこへも文句を言えずに撤退している企業の数は相当あることを知っておきたい。
(1)顕在化する前に感知する
 
経営者は、「事故や問題は発生したら直ちに報告せよ」と指示している。しかし、なかなか徹底できない。部下は事故等都合の悪い情報は上司へ報告しにくい。早く上司に報告しておけば問題にならないことは多い。これらの危機は従業員が多いから発生するわけではない。危機を回避する機能を拡大して危機が顕在化する前に情報を感知し、手を打つことも考えておきたい。危機が顕在化する前に感知する方法を挙げておく。
① データの分析による気づき
 
経営トップには毎日多くのデータが入ってくる。このデータの中に不正などの兆しが隠れている。データの中に入っている問題の兆しを早めに発見できる。例えば販売金額の異常な上昇や減少の傾向である。
② データは自分でグラフ化する
 
部下にグラフを作成させ、結果を見るだけでは発見できないこともある。グラフに自分でプロットすることで「あれ?何か変だ」と経営者の勘を働かせることができる。
③ 企業内の不満や苦情に耳を傾ける
 
不正は社内の誰かが気が付いて何とかしようとしていることが多い。火の気がないところに煙は立たないのである。
(2)法律違反に起因する危機
① 製造物責任法(PL法)問題
 
最近海外でも従来の品質問題に加えてPL法が問題になり始めた。PL法とは、製造物責任に関する法律で製品の欠陥により、生命、身体、財産に損害を与えた場合、損害賠償を求めることができるものである。日本では1994年に制定・実施されてすでに定着しているが新興国ではPLについてはまだ十分理解徹底されていないために問題が残されており安心はできない。従来問題にされなかった国においてもPL問題を突然要求され、戸惑いを見せるのも危機のひとつである。
② 化学物質の規制
 
欧州連合(EU)は、2006年以降、電子機器に使用する原材料について、鉛、六価クロム、カドミウムなどを使用禁止している。具体的には、鉛はんだや六価クロムメッキなど有害化学物質を使う部品について代替物質への移行を促す環境対策が要求される。先進国では過去の反省に立って、人間の身体に悪影響のある化学物質の使用を厳しく規制する。オランダでは、家庭用ゲーム機の一部部品で規制値を超えるカドミウムが見つかり出荷停止となった。中国や韓国でも同様の動きがある。新興国では、まだ管理されていないがどのような形でいつ表面化に現れるかわからない危機である。
 最近ではこの考え方をさらに進めてグリーン調達として考えられている。グリーン調達とは原材料、商品を購入調達する際に、その生産の段階や使用中、さらに使用後に於いても、環境に与える負荷や影響のできるだけ少ないものにしようとする活動を言う。地球環境問題が深刻に考えられる今日、我々が部品材料を購入する際、海外生産や国際調達においても、グリーン調達を心がけなければならない。グリーン調達の考え方は、新しい環境に関する潮流である。ある製品を考えた場合、そのライフサイクルのある段階(例えば生産段階)での負荷が小さい様に思えても、他の段階(例えば廃棄する時)で負荷が大きいと全体として、環境負荷が大きくなることも充分考慮して、購入の際、選択しなければならない。その考え方の一端を挙げておく。
・ 原材料については、リサイクルが可能であること
  リサイクルしやすい素材を使用することが最も望ましいが、できない場合は、素材ごとに分
  離、分解、分別が容易であること
・ 再使用が可能な原材料、部品であること
・ 再生された素材や再使用された部品を多く使用していること
・ 廃棄する時に処理や処分が容易であること
  最終的には、一部分が焼却処理や埋め立て処分されることになるのでこの場合に、負荷が少な
  い原材料を使用する注意が必要である。
・ 長時間使用可能であること
  
耐久消費財など、修理や部品交換が容易で長期間使用が可能であること
・ 資源やエネルギーの消費が少ないこと
  
流通段階や使用中に資源や電力などのエネルギーの消費が少ないこと
  環境や一の健康に害を与える物質が使用されていないこと及びその放出が少ないこと
③ 輸出貿易管理の問題
 
武器や軍事転用可能な貨物・技術が、我が国及び国際社会の安全性を脅かす国家やテロリスト等、懸念活動を行うおそれのある者に渡ることを防ぐため、先進国を中心とした国際的な枠組みを作り、国際社会と協調して輸出等の管理を行っている。
 
日本は、この安全保障の観点に立った貿易管理の取組を外国為替及び外国貿易法に基づき実施している。輸出しようとする貨物が、輸出貿易管理令(輸出令)で指定された軍事転用の可能性が特に高い機微な貨物に該当する場合 又は、提供しようとする技術が、外国為替令(外為令)に該当する場合には、貨物の輸出先や技術の提供先がいずれの国であっても事前に経済産業大臣の許可を受ける必要がある。各企業はこれを遵守すべく輸出担当者をおいて管理しなければ問題発生の恐れがある。自社の技術レベルと輸出貿易管理令の関係を正しく理解しておきたい。
(3)情報流出の危機
 
情報の流出の典型的な例は自社の顧客の個人情報である。信用失墜だけでなく損害賠償責任に発展する恐れもある。情報の流出に気が付くのが遅れることによりその損害が大きくなる。情報流出の原因には、外部からのサイバー攻撃、内部担当者からの流出、単純な紛失の3つがある。
 
外部からのサイバー攻撃に対しては、技術部門だけでなく、役員、法務部門、広報など全社で対応すべきことである。担当部門を設置しているから安心と経営者は思いがちである。しかし、相手は常に高度な技術を開発し日本企業を狙っている。いつも情報は狙われていると思って対応しなければならない。
 
内部の担当者からの流出には、自社の従業員だけでなく、業務を委託した先や再委託先からの流出もある。持ち出す者は不正アクセス防止法、不正競争防止法などで処罰の対象となる。経営者は防止体制や規定を整備する責任を問われる。インターネットへのアクセスが容易になり、外部との連絡も容易に頻繁に行われる。従業員に悪意がなくても結果として流出させる恐れもある。自宅で仕事をさせる会社が増えており、ネットで仕事をする場合どうしても避けて通れない問題かもしれない。暗証番号で管理するだけで情報の流出が防止できないかもしれない。パスワードに頼らない外部と全く遮断したシステムを構築することも考えたい。
 
担当者が情報をメモリーに移して使用するのが当たり前になっている。メモリーも小型で大容量になっており、紛失した場合その失う内容、財産が大きくなっている。USBメモリーやSDメモリーなど持ち運びが便利になった。それだけに出先に置いたまま忘れるとかうっかり紛失する恐れがある。メモリー装置など個人のモノでも持ち込み禁止、また社外への持ち出し禁止の就業規則を制定する会社も多くなった。
(4)社会的環境の変化を読む
 前回、社会的危機においても記載したが経営者の把握すべき問題として事例・表現を変えて説明しておく。
① 人件費の上昇
 人件費が安いという理由で中国へ工場を建設し、生産シフトした日本の労働集約的中堅企業は現在人件費の上昇と労働争議に悩まされている。「中国内陸部には、若くて元気のある大量の労働者がおり、次々と中国沿海部に供給されるので人件費は上昇しない」「中国政府の管理が厳しく、労働争議は発生しない」というのが今から30年ほど前の一般的な情報であった。しかし、中国内陸部へ多くの外資系企業が工場進出し、地方から出稼ぎに来る労働者が激減した。報道されない労働争議も多発している。このためにこれらの企業の一部には中国から撤退し、ベトナムやインドネシアへのシフトを検討する企業もある。人件費が安いという理由で安易に製造工場を海外にシフトした企業の反省がある。同じことが将来ベトナムやインドネシアで起こることも十分考えられる。現地責任者とのコミュニケーションを密にして危機発生の芽を摘みたい。
② 会社に非がなくてもストライキに
 
ある大手日本企業が工場を100億円で中国企業に売却し、完全撤退するという決定をした。これがストライキに発展した。従業員は売却先の企業が引き継ぐ契約になっており、大企業に全く非はないという。ストライキの理由は、従業員に無断で工場を売却したことにあった。会社を自国の中国企業に売ったことを問題にした。
 
「われわれ従業員は機械ではなく奴隷でもない。我々を中国企業に売るな。我々にも尊厳と人権がある。」との横断幕を工場も門に掲げ、ストライキに入った。従業員の狙いは補償金だ。「ストライキに参加すると日本の大企業だから多額の補償金が取れる」と思い込んでいる。「デモがいやなら補償金をよこせ!」とデモに参加するだけである。
最初デモなどする気のなかった従業員も「デモに参加して保証金が取れるなら」と単純に参加しただけの場合もある。日本企業なら補償金を出すだろうとなめられていただけである。大企業だけでなく日系の中小企業も中国人にいいように扱われ、搾り取られて命からがら逃げ帰った例もある。
③ 収入格差の存在と拡大による不満爆発
 同じ国の中でも首都と地方都市、離島など都市住民と農民、漁民など住民の間の収入格差が大きくなった。最近、インターネットの普及により、情報が瞬時に伝達され、市民運動や労働争議に発展することが多くなった。知識や情報が十分なく、格差について矛盾を感じていなかった層が多い国でも、大衆の考え方が時間とともに変化している。政治的に比較的安定しているといわれる国でも収入格差がいつ爆発するか知れず、危機として捉えておく必要が出てきた。地元の新聞情報や従業員の動きについては注意深くその変化や動きを観察する必要がある。

掲載日:2017/04/25

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