31 危機(リスク)への対応 2

自然災害と突発的な事故への対応

イグレン 加藤 文男

1 自然災害による危機と対応
自然災害による危機として、地震及びそれによる津波、台風、水害、火山の噴火、落雷などが考えられる。来日する多くの外国人たちは、「日本は地震の多い国」という情報を知識として持っている。しかし、実際に経験した人は少ない。彼らにとって地震は予断不可能な危機に違いない。海外調達や海外生産において日本人が遭遇する危機は来日している外国人の立場と同じである。
海外生産の工場の立地の検討では、日本国内の経験と現地の情報入手で相当対応を欠かすことはできない。海外旅行や駐在経験者がいろいろな立場で危機に対する情報を著書にして提供しているが製造業の立場で書かれたものは少ない。現地の日本人会の情報が最も適切な情報となる。
(1)地震と津波
地震の発生の予報は大変難しいが遭遇すれば大きな危機を伴う。海に近い地域では地震による津波も考えられる。地震と津波による災害はインドネシア、チリでは毎年のように新聞やテレビで報道される。地震による地滑りや建物の崩壊は、米国、アルメニア、中国、イタリヤ、ネパール、トルコ、ニュージーランドにおいて発生の情報がある。しかし、地震に関する過去のデータは日本ほど残されていないので現地で対策の情報の入手は困難である。日本人は地震や津波の危機の知識は多く持っているが日本における建物や道路を基準としており現地でこの知識がどこまで通用するかわからない。
地震では、その土地の過去の被害の経験を活かし、将来発生する地震を想定し、建物や設備の強度を補強する。地震に対する完全対策は難しいが海外調達や海外生産では部材の供給が止まっても復旧までの期間を予測し、在庫を増やし、持ちこたえる期間を長くすることで対応する。
対策には費用を必要とするのでどこまで補強し、在庫を増やして準備をするかは企業それぞれで判断することになる。
(2)洪水
タイなど東南アジアでは毎年季節的に発生する水害に遭遇し、驚かされる日本人も多い。しかし、現地の人にとって洪水は毎年発生する定例イベントのようなものでニュースにもならないらしい。洪水は彼らにとって異常な事態(危機)ではなく、ただ日本人が知らないというだけのことのようである。その上洪水による日程の遅れなど半ば諦めており、対策を十分にしているとは思えない。洪水は生命の危機まで至らないが生産部材の供給遅れによる、生産日程の遅延となって表れる。発生時期の情報を入手し、適切な在庫量を想定し、対策としたい。
(3)地域に応じたBCP
最近BCP(事業継続計画)を作成する会社が多くなった。日本国内では東日本大震災の経験を活かして、BCPを見直し熊本地震では予想以上の短期間で復旧できた会社は多い。企業の大小を問わずBCPの作成が必要である。この機会に自社の海外進出国に応じたBCPを検討しておきたい。
① 設備に対する補強
  予備電源設備の容量拡大
  クリーンルームやシールドルームの強度補強
  免震装置の設置
② 落下防止対策 仕掛品への被害の減少
  重要物の保管構造物設置
  部品の棚の強度補強
③ 原材料(部品)・製品
  完成品在庫の積み増し
  半完成品での在庫積み増し
④ 調達ルートの複数化

2 突発的事故
 爆弾テロ、ハイジャック、誘拐などは、予測が不可能である。しかし、これらは身体生命への危機が大きく、まず自分自身の生命の安全を守らなければならない。
外務省のホームページでは、海外地域や国ごとに新しい危険情報を掲載している。出張前にはホームページを確認し、心の準備をして出かけたい。
最近の情報をもとに爆弾やテロなどの可能性の高い危険な地区や建物に近寄らないことで危機を回避でき、被害も少なくできる。誘拐では、現地の駐在員が工場と自宅間の通勤経路を毎日変更することにより回避できるとして1980年代から対策として実行されてきた。航空機事故では安全な航空会社を選ぶことで危機に遭遇する確率は下げることができるといわれている。これらの情報は性格上、公にされていないが海外の日本人会などから入手が可能である。
海外出張時には、現地に到着次第、滞在するホテル周辺の地図や危機に関する情報を入手して心構えを考える。危機に対する考え方に違いもあり、その地域とタイミングで個々に判断することになる。ホテルでは、非常口や避難通路など確認することが自分自身の身体生命の安全を確保する基本となる。

掲載日:2017/03/26

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