22 海外調達、海外生産の必要性の再検討を

状況は変わっていないか再度見直す

イグレン 加藤 文男

 他社の動向や親会社の要求など海外調達や海外生産に移行する理由はいろいろ考えられる。しかし、もう一度その内容やレベルを十分確認することが必要である。
 
最近、海外調達や海外生産の国内回帰が話題になっている。一番の理由は、長く円高げ継続したが、逆に円安の方向に動いてきたことである。海外調達品や海外生産の調達価格が高くなり、円安の期間が思惑より、長く継続し、利益を確保することが難しくなっていることにある。
 
調達するものが部品か完成品としての製品かで判断も異なるがこれから海外調達や海外生産に移行を決定する場合国内回帰にならないように十分な検討の確認が必要である。
 
海外調達や海外生産の要因についてはすでに検討したが移管する要因について状況が変わっていないか再度見直すことが必要である。

1 生産コストの上昇の確認
 
海外調達、海外生産の最も大きな理由は、国内で製造していたのでは、コストが上昇して価格競争にならないということである。国内調達ではこれ以上安くならないと本気になってもう一度確認する必要がある。
 
生産コストの上昇の要因である、原材料価格、人件費、電力価格など個々にコストダウンの可能性について念を入れて確認する。人件費は国内に比較し、海外の方が安いことに間違いない。しかし、最近新興国では、人件費が予想以上に高騰する動きがある。当面の人件費だけでなく、2年先、3年先まで想定しておきたい。原材料は、原油価格に大きく左右される。2012年初め1バレル当たり$120であったが最近は半値の$60以下が続いている。米国におけるシュールガスの採掘に要する価格は、年々下がっており、採算ベースが$40以下になったともいわれる。電力については、コストだけで判断できない。電力事情が悪く頻繁に停電が予測されれば自家発電装置が必要になる。自家発電設備を含めて検討すれば、国内製造の方が安くなることはあり得ることである。生産コストの検討が新しい情報で判断する必要がある。
2 労働力確保の問題
 国内の労働力不足も海外調達、海外生産の理由であった。労働力が確保できなければ製造できない。ロボットの開発も盛んにおこなわれており、その能力も大きく進歩している。生産量が多ければ、対象部品や製品の構造を変更すればロボットで対応可能になることもある。3Kは嫌われるが、作業方法の改善でパートタイマーや女子社員で対応することも可能になる。安易に人材不足ということを理由にしていないか反省も含めて検討する価値がある。
3 工場環境対応
 
騒音、振動、悪臭、排気・排水、廃液などの工場の環境に関する規制が厳しくなっていることは間違いない。廃液処理など設備を拡張する土地が確保できず、新しい工場を建設する用地の確保も困難になっており、海外生産に移行することが理由になる。同じ理由で工場閉鎖や廃業を検討する企業があるかもしれない。環境問題を持つ企業間でお互いに補完し国内の生産能力を上げることも検討する。企業間で情報を交換し、総合力を発揮できないかを検討することも考えてみたい。
 
海外でも市民運動が活発になり、規制がどんどん厳しくなる傾向にある。また、外資系企業である日系企業に対する規制は現地企業に比較し、厳しい対応する実態もある。工場誘致のために厳しい条件や社会情勢の動きを正しく把握しないと生産に移行できないケースも出てくる。海外工場の建設には、相当大きな資本と労力が必要である。企業間の連携も検討してみたい。
4 販売先及び市場の実態
 
製造する部品や製品の使用する顧客が海外の場合、納入先から海外生産を要求される場合がある。輸送コストの点で消費地の近くで製造する方が有利になる。JIT対応が要求されると現地で生産することが条件になる。しかし、海外生産を要求した親会社が進出した子会社企業の経営の経営まで保証するわけではない。親会社もいつ工場の移転や閉鎖があるかわからない。親会社の事業の継続も確認はなかなか難しい。親会社に追随して海外へ移行してみたが親会社が先に撤退してしまったという例もある。親会社以上の供給量が他社へ供給できる見通しがなければ事業の採算は難しい。海外生産よりも、国内販売のみに限定する決断も必要である。
5 
輸入制限などの実情
現地の企業を育成するために日本からの輸入禁止や日本製品の輸入制限をする国は多い。政治的な動きでも高い関税が課せられ、輸入制限や輸入禁止と同じ効果で商売ができなくなることはよくある。
 輸入制限や輸入禁止の理由は、法規制の内容を詳しく調査する。製品に無駄な機能や高度な性能があるために規制の対象にされる場合もある。輸出相手先で販売できる実態を再確認するとともに将来の可能性についても十分検討したい。この調査は、実際に海外調達や海外生産に移す場合にも貴重な情報となる。

 海外調達も海外生産も採用される部品や製品の市場の大きさと自社の総合コスト力で決まる。海外生産工場の設立には大きな資本も必要になる。供給する部品や製品の将来性、関連製品への展開なども詳細な検討が必要になる。自社の技術力の再評価も必要である。海外調達や海外生産への移行だけが当面の対策ではない。
海外調達、海外生産共に失敗しても経営者は、表に出さずに隠してしまう傾向がある。検討不十分で撤退している企業がたくさんあることも忘れてはならない。

掲載日:2016/10/29

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