39 取引先管理(外注管理)1

取引先管理の目的と主な内容

イグレン 加藤 文男

 調達する原材料は、できれば将来末永く、同じ取引先から安定して原材料を購入したいものです。その方が安定した品質のものを購入できるからです。新しい購入先から調達は、一時しのぎは別ですが安心して購入できる取引先かどうかの調査から始めることになります。資材購買担当は、できるだけ継続して取引するのが安心です。従って購入する当方だけでなく、取引先も利益を確保し、将来の発展に備えていくだけの利益を確保できる関係を構築することが大切です。信頼のおける取引先が多いほど無駄な調査などを省略できます。その為に取引先管理が重要になります。

1 取引先管理の目的
企業により、業種により、物の調達に関する考え方には色々あります。ここでは、自社以外から原材料、部品を適正に購入するために原則としてすべての取引先について品質、コスト、納期などの情報を入手し、把握し、必要に応じて対策を講ずるための活動を取引先管理として考えます。しかし、すべての取引先について実施することは体制的に能力的に無理があります。方針を決め、優先順位をつけて情報を収集し、整理します。
資材購買部門の使命は、最初に記しましたように「適正な価格で必要な数量を必要なタイミングに購入すること」です。製品を組立て製造する企業では、使用する部品の一つでも欠けても製品が完成しません。生産活動に必要な原材料、部品に関して、人、物、金、時間を含めた情報を入手し、最適購買することが資材購買部門における取引先管理の目的です。取引先管理は、日常の資材購買活動を通して、相手先の情報を正しく把握し、適切な資材購買活動に結び付けることにより、ムダや大きな損害を未然に防止することにも結びつきます。

2 取引先管理の主な内容
(1)取引先の名簿の作成と取引開始の際の初期情報の記載
取引先管理をするためには、現在取引している購入先の情報を入手します。企業概要書、決算書などは上場企業であれば入手できますが中小企業では提示・公開していない企業も多いので、情報の入手にも工夫が必要になります。
まず、取引先名簿を作成します。取引先の区分には、原材料、電気部品、機構部品、補助材料など業種による区分、調達、購買する原材料、部品の重要性に応じての区分、自社の取引内容の重要性や金額の大きさによる区分など管理の目的によって工夫します。収集する企業の情報は、企業名、住所、代表社名、資本金、従業員数、業種、主要な取引原材料、部品名はなどがありますがこれらの内容は、最初に取引を決定する際に、調査し、取引先として適切かどうか評価する際に入手しているはずです。取引が継続して繰り返される場合には、調達担当は取引先に関する情報を常に新しい情報に常時書き換えることが重要です。
以上は、原則ですがどの会社でも何らかの取引先の名簿が作成され、ある程度整理されています。現在ある情報を補いながら充実していきましょう。

(2)QCDに関する入手情報の項目と整理
日常、取引する原材料に関する品質(Q)、コスト(C)、納期(D)については、日常の取引を通して常に情報が入手できる状態にあります。品質に関しては、不良率やロット合格率、外部からの苦情などが含まれます。日常入手できるこれらの情報は、取引企業の管理状態を反映しています。社内で入手できる貴重な情報なので取得すべきデータ項目を予め決めておき、整理し、定期的にメンテナンスをすることです。これらのデータは、いつでもみてその企業の実態を直ちに分析できる状態にあることを自覚しておきましょう。
① 品質に関する項目
 ・ 品質保証体制 品質保証体制図と責任者
品質保証体制は、小さな企業では体制図として作成していないこともあります。実態をヒア
リングし、品質責任者、検査責任者などを図にして確認します。作成した体制図は、取引先
にも渡しておきましょう。品質に関する意識の高めることに役にたちます。
 ・ 技術水準 製造技術力や技術水準の変化、同業者との比較
   技術的な特徴や製造上の他社にない特殊なもの(能力など)があれば記録します。
 ・ 受入品質 月別品質(ロットアウト比率、不良率など)
 ・ 工程品質 工程不良率の変化、トラブル発生状況、対策と結果
   受入れ検査の成績を毎月記録します。受入れ検査をしていない場合は、使用した工程におけ
る不良率や品質問題を記録します。
 ・ 市場不良 原材料に起因する市場不良率、苦情内容と件数推移
   製品として出荷した市場や納入先からの品質問題や苦情を記録します。この記載で重要なこ
とは問題をどのように解決し、再発防止対策を実施したかです。ひんしつ問題や苦情の件数
は、心配の原因になるだけです。
② コストに関する項目
 ・ 価格低減に対する協力   合理化に対する提案と価格低減の内容
   購入を始めたときからの納入価格の推移です。長期間使用する場合は、予めグラフを作成し
て記録できるように工夫をします。コストダウンに対する改善の協力や意見なども記録しま
す。
 ・ 価格と技術水準の優位性  同業他社との比較
   取引先の技術的な優位性と価格に関する交渉の内容を記録します。取引先の担当者名や交渉
時の考え方や姿勢も時間の許す限り記録します。
 ・ 改善に関する提案     各種会議への参加頻度など
   改善のアイディアや提案は、その企業の経営姿勢を示しています。積極的な取引先は、新製
品開発の際の相談にも対応してくれるはずです。
③ 納期に関する項目
 ・ 納期遵守率 納期遅れ件数、比率、自社担当者からの督促頻度
 ・ リードタイム 納期短縮に関する提言、提案
   交渉して決めた納期通りに納入されるのは当たり前のように思われますが、納期遵守率で取
引先の担当者の管理レベルがわかります。その取引先にとって取引金額が少ない場合は、優
先順位が低いので連絡を密にして納期管理に特に注意が必要です。

(3)取引先の経営状態を定期的な把握と変更(経営状態の分析と取引先評価)
社会状況や経営環境は常に変化しています。取引する企業がこれらの変化に対して、適切に対応し、中長期的に原材料を安定して供給できることを確認できるようにしておきたいものです。そのために、定期的に取引先の状況・情報を入手する方法を決めておくことも大切です。企業情報の入手は、取引金額の大きさや取引先と力関係が大きく影響します。取引金額が小さい場合は、要望しても聞き入れてもらえません。日常の担当者との電話や会話で情報を集めることになります。
取引企業が多い場合は、定期的に面談するだけで相当な労力を必要とします。重要な取引先については取引金額も取引頻度も大きいために経営者と接する機会も多くなります。取引の重要度に応じて情報入手の頻度やコンタクトの頻度を予め決めることもひとつの方法です。板金加工や樹脂成型などの部品では、金型を預けていることが多いので特に注意が必要で調査の優先順位を高くしておきます。
取引金額が大きい場合には、取引基本契約書の中に決算書や概要書の交換をできるように取り決めるのもひとつの方法ですが、中小企業にとって取引基本契約書などを結ぶことは困難です。従って日ごろから定期的に取引相手先の担当者だけでなく、経営者と面談する機会を持った際の話題の中から正しい情報の入手に努めたいものです。また、品質問題発生時には、情報を待つのではなく、取引相手先企業を訪問し、経営者又は、経営幹部と面談し、現場を確認することがも重要です。定期的な訪問は、その企業の状況の変化を確認する良い方法です。経営幹部の退職や担当者が頻繁に替わることも大切な情報です。
入手した企業情報は、報告形式を定めて記入し、経営幹部に報告できるようなシステムにしておきたいものです。将来の取引の継続の判断に使用できます。

掲載日:2016/01/06