24 原価管理の考え方 1

原価意識の高揚は、全社全部門で取り組みたい

イグレン 加藤 文男

 製造業は、顧客の要望する機能、性能を有する製品を開発し、適正なコストで製造し、販売し、収益を上げます。製造業、特に原材料を集めて組立てする場合には、原価の中で原材料費が占める割合が大きいのです。従って、原材料の取引先を選定し、価格を交渉し、決定する資材購買部門の契約担当は非常に大きい役割を持っています。しかし、原価構成全体を考えた場合、資材購買の契約担当が個々の原材料の調達で価格交渉をするより、全社的に取り組むことの方が原価低減の効果は大きくなります。
 ここでは原価管理及び原価意識について考えてみたいと思います。

 (1)原価管理とは
 原価管理とは、企業の営業部門、企画部門、開発設計部門、資材・購買部門、製造部門などすべての部門の社員が原価を意識し、それぞれの担当部門の立場で、適正な原価構成に貢献すべき項目を理解し、企業が利益を確保するためにその役割を果たすよう活動することです。
 営業部門は、市場を常に観察し、顧客のニーズを把握し、製品の性能や機能、価格に関する情報を企業内に提供します。企画部門は、これらの情報を基に売れる製品を企画します。設計開発部門は、常に新しい原材料や部品に関する調査研究を行い、適切のものを採用します。製品開発設計する段階のコストも無視できません。工場部門は、新しい生産技術を検討し、常にコストの追求を行い、生産の合理化を図りすべての製品でできるだけ経済的に製造することを追求します。原価管理は全社的な取組みの効果がたいへん大きいことを知りましょう。

 (2)重要な全社の原価意識
 原価は製造するための企業目的を達成するために行なったすべての部門で努力した総合的な価値で決まります。従って、全社員が原価を意識し、原価に関する各項目を理解し、常に利益が確保できるようにそれぞれの部門でそれぞれの役割を果たすよう活動することが重要です。原価意識を高めるためにまず全社で原価の仕組みを理解し、常に原価に対して関心を持たせることです。原価は、生産の結果ではなく、目標として捉え、全社員の行動すべてが販売する商品の原価に結びついており、関係する全社員が利益を確保するために無駄な行動をできるだけ排除することを考えなければならないのです。
 各部門への原価意識を強く持たせる活動が重要であり、原価管理を預かる契約担当は中心となって活動したいものです。

 (3)原価に関して各部門が認識すべきこと
 原価について全社で意識を持つことが重要ですが各部門で注意すべきポイントを整理しておきます。
① 企画部門・営業部門は的確な市場把握を
  企画部門と営業部門は、協力して市場を正しく把握し、売れる商品を企画することです。市場
 を良く見て、顧客の要求を素直に聞き、考え方、ニーズ、嗜好などを理解して、どのような製品
 が適切かを考えます。製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、販売促進
 (Promotion)の4Pを基に意思決定することがマーケティングの基本ですが、自社の現在の商品
 構成(セグメント)、技術力、製造力および将来の方向を想定して商品を企画します。この段階
 では製品の機能、性能と同時に、その商品の寿命までの販売台数(企画台数)をできるだけ正確
 に予測することが重要です。企画台数が正しくなければ、目標価格を正確に設定できないので
 す。

  * 製品が企画され、開発設計し、製造され、生産中止するまでの間に生産される数量を企画
    台数という企業もあります。便宜的に企画台数、企画数と表現しておきます。

 ② 開発設計・技術部門でコストは決まります
  営業・企画部門が作成した企画書を基に設計を開始します。企画書の機能、性能により、構想
 設計を行い、デザインや構造、採用する原材料、部品を選択し、詳細設計し、仕様書を作成しま
 す。製品のコストは、企画、開発、設計段階でそのほとんどが決定されます。
  目標価格の達成には、開発購買担当が収集した情報により、新しく採用する原材料や部品を決
 定します。開発、設計部門にとって新しい工法や原材料の採用など設計技術者としての最大の腕
 の見せ所なのです。コストダウンには、部品や材料の標準化を図り、使用実績のある原材料を使
 うほうが安全です。新しい部品や材料の選定は、目標価格の達成に大きく貢献する可能性は大き
 いのですが品質の安定の面ではリスクが伴います。設計部門は、新技術の採用と品質安定の相反
 することを考慮し、バランスの良い判断が要求されるのです。
  目標価格を達成できないために後日、デザイン、構造や材料を変形することは、多大の労力と
 時間を必要とし、納期遅れ(発売のタイミングを失う)というリスクの原因となります。開発設
 計担当者は、調達購買部門と共に最先端技術の情報や原材料、製造工法などの情報に謙虚に耳を
 傾けて、デザイン、機能・性能・目標価格を達成に向けて行動を起こしたいものです。このよう
 に設計技術者は、原価について、最も重要な立場にあることを忘れず、技術情報誌、業界誌、各
 種展示会に関心を持ち、積極的に参加し情報集に努力することが大切です。

 ③ 製造・工場部門は、最新の工法の研究を怠らないこと
  作業効率の良い新しい工法や製造設備は、工程改善やコストダウンのために大きな効果を発揮
 し、目標価格の達成に貢献します。不良の少ない、歩留まりの良い製造をするために効率の良い
 製造方法を研究し、目標価格の達成に貢献することは製造部門にとっての大きな使命です。常に
 新しい工法や製造設備の情報に配慮し、研究を怠らないようにしたいものです。

④ 資材購買部門は情報収集提供センターに規取引先の売り込み訪問を受ける機会もあり、資材購
 買部門は毎日のように取引先など外部と接触し、新しい技術や原材料に関する情報を入手できる
 立場にあります。資材購買部門は、常に設計開発部門、製造部門へ情報提供するために新しい工
 法や部品材料の情報を収集して関係部門に最新の情報提供する役割が大きいのです。新部品や材
 料の発表会や各種展示会の情報を入手し、社内にその情報を提供すると同時に関係部門の担当者
 に同行して最先端の技術が採用できるよう貢献できます。

 中小企業においては、組織的に複数の部門の機能を兼務することが多いので各担当者がそれぞれ情報に敏感になり、定期的に情報交換することを怠らないようにしたいものです。資材購買部門は、各部門のそれぞれの役割を理解した上で、的確な情報を提供し、契約段階で合理的な価格で購入する契約をすることになります。全社的な原価意識を高めるコントロールセンターの役割もあるのです。

掲載日:2015/08/16