17 もしあなたが調達担当に配属されたら その2

問題の解決方法 1品質管理の基本は5S

イグレン 加藤 文男

 調達担当の重要な仕事は、納期通りに注文した原材料を取得することです。ところがいろいろな理由で納期通りに納入の遅れが発生します。事前に取引先の進捗状況を確認し、「大丈夫です。すべて納期通りに納入します」という返事をもらった筈なのに納期遅延はおこります。そして、「担当は何をしてるんだ」と上司や製造部門などから叱られることになります。

 納期遅延はその多くが取引先の生産管理体制の不備や品質問題の発生が原因です。調達担当者が事前に取引先に進捗状況を確認しても、突然品質問題が発生して納期遅延の連絡を受けることがあります。取引先の担当者と協力して品質問題や生産管理の体制の改善指導ができる能力が必要になります。

 配属されたばかりの新入社員では、改善指導は難しいと思いますが問題解決の手法を挙げておきます。これらの手法は、価格交渉の際の大きな武器にもなります。できるだけ早くこれらの問題解決の手法をマスターして調達担当の腕をあげて欲しいものです。

Ⅱ 問題の解決方法 
1 品質管理の基本は5S
 
 納期遅れの大きな原因の一つが品質問題の発生です。その原因は、品質管理が徹底していないからです。品質管理の基本は5Sの徹底です。

 5Sとは、整理(SEIRI)、整頓(SEITON)、清掃(SEISOU)、清潔(SEIKETSU)、躾(SITSUKE)の頭のSをとったものです。これらの言葉は、日本語ですが世界各地の日系企業の工場においてそのまま5Sとして実施されています。いずれも我々日本人にとって簡単で聞きなれた言葉ですが、品質管理の基本である5Sとして、その内容を説明しておきます。

(1)整理
 5Sにおける整理とは、不要なものは捨てることです。そして当面使用しないものは、指定された保管場所に保管します。整理をする場所の対象は、工場であれば、作業者の作業台及びその周辺、工場内、倉庫内などの床、棚、保管するスペースすべてが該当します。整理の検討の対象は、原材料、部品、仕掛品、製品などの在庫品だけでなく、機械、設備、冶工具、金型、台車、机、椅子、車輌、備品などの対象となる場所に見えるもの全てが含まれます。整理が出来ないと、整頓も清掃もできません。

(2)整頓
 整頓とは、整理の後に必要で価値ある判断したものを、必要なものが必要なときに必要なだけすぐに取り出せる状態にしておくことです。必要なものがあることがわかっていてもすぐに取り出せない状態では意味がありません。必要とするものは、その数量を一目でわかるように「見える化」することも大切です。

 (3)清掃
 清掃とは、機械設備の周辺を掃き清めることだけではありません。機械設備そのものやテーブルの上など作業する周辺も常にきれいな状態にします。また、作業で汚れたらすぐきれいにする習慣をつけます。整理、整頓した状態を作り上げ、これを保つことです。

(4)清潔
 5Sにおける清潔とは、職場環境を整理、整頓し、清掃し、清潔な状態に維持することです。清潔な状態とは、ゴミやホコリが対象ではなく、広く騒音、振動、臭気、温度に異常はないこと、作業に必要な照明、通路スペースの確保も含めて考えます。従業員や作業者が、身なりを整え、人に不快な思いをさせないことも清潔の重要な部分です。

(5)躾(しつけ)
 全社員が、決められたことを決められたようにいつでも守る習慣をつけることです。そのために組織内でルールを定めます。そのルールを必ず実行する習慣をつけることです。

 以上は、一般的な製造工場における5Sですが、食品製造業ではこの5Sのレベルでは十分といえなくなっています。食中毒などを防止するために5Sを更に詳細に分けて、「7SプラスD」を徹底して問題の発生を防止しているのです。

 (6)洗浄
 洗浄とは、食品製造業において製造設備、器材、治工具など製造環境を含めて目に見える食物残渣だけでなく微生物レベルまで洗い流し、除去しています。製造設備、器材、治工具などに食材などの原材料が付着し、汚れているものは、目で確認し、洗い落とすことができます。しかし、一見してきれいに見えていても微生物で汚染されている場合があるのです。微生物は、時間の経過と共に増殖するのが普通です。使用後増殖する微生物を洗浄してできるだけ少なくすると共に、次に使用する前に(例えば翌朝など)洗浄し、微生物レベルまで除去する必要があります。

 (7)殺菌
 殺菌とは、有害な微生物を減少させることや除去することであり、残された微生物を一定以下のレベルに増殖させないようにコントロールすることです。同様な言葉として、「消毒」「滅菌」「除菌」などもありますがここでは、有害微生物を一定以下に制御する意味で使われます。殺菌は、食品による危害を与える微生物汚染を防止するために器材や治工具だけでなく、食材を汚染した微生物や食品製造工程において混入した微生物を減少させること、微生物を一定以下に増加させないことを目的としても行われます。食品製造業においては、7番目のSとして考えておいてください。

(8)ドライ化(乾燥)のD
 食品による危害の原因となる微生物は、製造設備や治工具などの温度、水分、栄養状態が変わるとその増殖も大きく変化します。食品工場においては、洗浄や殺菌と同様に厨房や食品製造工程のDドライ化(乾燥)は、微生物の増殖防止に効果があります。食中毒の原因となる細菌やカビは水分を除去するドライ化でその増殖を防止することができます。ドライ化は、作業環境の清掃作業を容易にすると共に微生物の制御を容易にする効果もあります。

 九州の中小企業大学校では、数年前から「5Sの改善と実践」というテーマで現場の班長さんの5Sリーダー育成のために3日コースや4日コースで徹底した研修を行なっています。
 「5S」などと言うと皆さんや社長からも「もう、十分やっています」という返事がきます。整理、整頓などというと昔から使い古されたことばであるだけに日本の企業では「あたりまえのこと」になっているのです。ところが現場を見てみるとあきれるほど不十分な会社が多いものです。皆さんの取引先でも5Sを徹底することで納期遅延の対策の一つとして効果をあげることができます。

 現在は製造業だけでなく、珍しい例では養豚工場や養鶏場、きのこ栽培業においても実践されています。建設現場でも事故防止のために「5Sプラス安全」でその展開を拡げています。さらに、病院なども5Sを実践してたいへん効果を挙げています。5Sは、言葉としては簡単ですがそれを実践し、効果を上げるには時間がかかります。新しく資材購買へ配属された皆さんも「5Sセミナー」など研修の機会があれば率先して受講し、基本と実践方法を身につけていただきたいものです。

掲載日:2015/07/04