| 短期間ではあるがアルメニアを訪問して、中小企業振興にかかる関係者及びいくつかの中小企業を視察し、経営者と面談した。 |
| 社会主義政権下における計画経済から、自由主義経済に大きく舵をきって10年を越したがまだまだ中小企業の経営者には、知識としては持っているが実際に身についているとはいえないようである。面談してみると問題に関する考え方の違いや問題に対する言い訳などが表面に出てくる。色々な言い訳がなくなったときに自由主義経済を理解して、本当に身についたといえるのではないかと思われる。 |
| 下記はそのときの感想である。 |
1 他人のせいにする経営者
ソ連邦崩壊が原因で、従来使用してくれたところから急激に注文がなくなった。経営状態が悪くなったのは、それが原因で自分のせいではない。このようなマインドのまま考え方を変えられない経営者もあった。今まで、製品であれば仕様や規格、生産数量まですべて中央で決定され、工場に指示された。体制が変わって、マーケティングから、製品仕様、生産計画まで自社で作らなければならなくなった。経営者はこのときに考え方を変更しなければならなかった。確かにそれまでマーケティングの必要性はなく、注文を積極的にとることさえ知らなかったので「急に意識を変えろ」といわれても無理がないかもしれない。しかし、その言い訳を使えるのは、変わってしばらくの間であって、いつまでも、他のせいにはできない。体制が変わったのは、1991年の話であり、すでに10年以上経過している。この間にマーケティングを行い、現在の市場に合った新製品を開発し、生産に結びつける必要があり、それまでの技術の中で応用できるものを使い、新製品を開発するか、新分野に展開する必要があった。考え方を変える重要性にもっと気づく必要があった。 |
2 改善意欲の低さ
新製品を開発ができずに従来製品を細々と生産を続けるだけの経営者もあった。工場の稼働率が30%や40%に下がっても経営者があまり危機感をもたない。とにかく現在の従業員を食べさせられればそれでよし。大きな改革をする気力がない。大きく売上を伸ばそうとする意識は感じられない。
この感覚は、アルメニアに限ったことではない。欧州でも同じで経験をしたことを思い出した。北欧のある国の販売店でのことであったが毎年の伸びは5%もあれば満足である。減るのは困るが少しずつ、しかし、毎年伸びれば問題としない。いくら可能性があっても20%とか30%など日本人のように可能性があればがんばるという、急激な伸びは不要なのである。むしろ5%程度になるようにブレーキを掛ける。
あまり伸びの大きな事業計画を立てると、人も増やさなければならず、関連する設備も買い換えなければならなくなるという。もちろん大きく飛躍する場合には、検討するがそれは長期的に考えることであり、当面の話ではない。急激に大きな売上目標にすると楽しみにしているバカンスにも行けなくなるかも知れない。そのほうが問題なのである。今回その辺の気持ちまで確認できなかったがアルメニア人のマインドも欧州人と同じと考えてよいのではないだろうか。けれどもアルメニアの現状を考えるとき、思い切った転換する対策を打たないと窮状からの脱皮は難しい。
今回視察した、化粧品会社も工具メーカーも、設備の稼働率が30%や40%に下がったと言っているがあまり危機感を持っているとは思えなかった。従業員を繋ぎとめるだけの給与が支払えればそれで満足なのであろう。どこから金が出ているのか援助があるのか知れないが何とかなってしまうのであろうか。海外のアルメニア人、ディアスポラが資金援助など力になっているのが実態かもしれない。危機感を持たずに安閑としておれないと心配するのは、市場拡大意識に毒された日本人だからだろうか。 |
3 「問題ない」が改善を阻む
「問題がない」という認識を持っている限り改善は望めない。計画経済の影響を受けているとはいえ、現在の入超が継続するアルメニアの実態から改善を図るためには、1日も早くこのぬるま湯から脱出しなければならない。
アルメニアの経営者にアンケートをとった場合、「現在問題はない」という回答が多くあるという。訪問した企業に現在の抱えている問題について質問をしてみた。「非常に順調で問題ない」との回答が帰ってきた。自分の工場の弱みを見せたくなかったらしい。工場見学も開発用の実験設備だけで生産ラインは見せてくれなかった。開発用の設備の状況から想像して、問題がないとは言えない。
企業にとって問題は常に存在するのである。常に改善しないと競争相手に負けてしまう。これが市場経済における厳しさの現実である。アルメニア産業の経営者、経営トップは、この認識の誤りに気がつかなければならない。
経営者は、停滞する現状を常に打開する旗を振り続けなければならない。これができない経営者は、先進諸国では失格である。厳しい競争を理解し、リーダーシップを発揮できる経営者でなければ経営トップの資格はない。かつて、中国がそうであった。国営企業の経営者は、計画通りに生産高をあげればそれで満足していた。しかし、現在はこのような経営者は、淘汰されて、日本や欧米で競争原理を勉強した若い経営者に替わっている。中国において大きく成功している企業の経営者の多くは、欧米や日本で新しい手法を学んだ人が多い。計画経済で学習した手法は全て忘れて新しい手法を学ぶことが成功の近道である。
経営者が自らできなければ若い有能な人材を採用して新しい技術の導入や手法の導入を図ることである。若い人材が実力を発揮できるように環境を作らなければならない。この環境作りや意思決定が経営者の重要な役割になる。海外の企業で働き、手法を身に付けた意欲的な有能な人材がたくさんいる。これらの人を採用して、アルメニアの現状を打破しなければならない。論理的に理解できただけではなく、その理論を実際に経験したものでなければ、その組織の基で働く作業者は、気持ちよく働くことはできない。 |
4 正しい経営データを出せない風土と税制
もうひとつの問題は、売上高や利益を正しく言う習慣がないことである。現在の売上高さえ隠そうとする。中には、会社の概要さえ、目的がはっきりしないと言って提示を断られた。われわれが知ろうとする目的つまり、企業診断は、会社概要を出す理由にならないらしい。会社概要をわれわれに渡すとそれが税務署に伝わり、隠している利益をも見つけ出し、税金をかけるくらいにしか考えていないようである。従って、財務診断ということも今回のテーマにあったのであるが正しいデータが期待できないので正しい診断はできない。訪問したほとんどの企業の経営者が同じように考えていると見受けられた。正しい財務諸表を公表しないのが普通らしい。正しい財務諸表どおりに税金を納めるのは損という思いがあるのであろうか。
また、今回資本金を調査する質問に加えていたが、手数料を含めて50000ドラム(約US$100)が多く、融資を受けるために企業としての体裁が取れていればそれでよく、資本金の多少は問題にならない。日本においても新会社法で資本金についてはいくらでも良くなった。しかし、アルメニアにおける企業の評価基準には注意をしなければならない。 |
5 研修やコンサルティングには費用を払わない
経営者及び働く労働者や担当者に意識改革が必要
日本でもコンサルティングや相談など形のないものに対してお金を払いたがらないが、アルメニア人は、それに輪をかけているようである。中小企業に対して、アメリカやドイツなどの海外の支援者(ドナー)が援助ということで、研修やコンサルティングは無償で行ってきた経緯がある。研修によっては、食事やお茶もついてすべて無料で行ったためには、この種のものにお金を出す習慣や考えがなくなってしまったのであろう。
研修費用を有料というと、「なぜお金を支払わなければならないのか」という質問や苦情が主催者に対してあるという。自分で費用を負担しないとその効果も少ない。受講しても責任を持たない。研修を受けただけでおしまいになる恐れがある。
最近、研修を主催するほうも無料の研修では、そのありがたみや価値が理解されずにその効果も少ないことに気が付いたようである。それ以降、この考え方もSMEDNCの研修を担当する方々が少しずつ、変えつつあり、1回につきUS$8とかUS$10くらいであれば支払ってもよいと思うようになったという報告もある。公務員の月収1万円程度と聞けば仕方がないと思われることかもしれない。ちなみに研修は、1日4時間、5日間コースで研修費用はUS$40である。
もっとも研修やコンサルティングに対して費用を支払わない意識は日本にもまだまだ残っているので偉そうなことはいえない。 |
| 2006年9月24日 |
| 加藤文男 |